私が営業部長を勤める不動産仲介会社は、首都圏のK市を地盤としています。賃貸・分譲物件をともに扱っており、地元での事業展開の歴史は長く、現在、K市内に4箇所の営業所を展開中です。全国的な知名度はありませんが、地元の方には、なじみのある存在です。
ここ数年、当社のマーケットには、変化が訪れております。その第一は、工業地帯であったエリアが再開発され、高級住宅地として生まれ変わろうとしていること。大型ショッピングモールなど、インフラも整い始めており、30代から40代の余裕のあるファミリー層の流入がさかんです。変化の第二は、もともと高級住宅地であったエリアで、物件・土地の所有者が代替わりするなど、流動性が高まっていること。
こうしたプラスの変化がある一方で、マイナスの変化も。当社のマーケットには、いくつかの大学があり、学生や若年層を対象にした賃貸需要も高かったのですが、少子化の影響で、この分野におけるビジネスの勢いは、急速に低下しています。また、比較的、安価な分譲物件も、動きが急速に鈍くなっています。
このような状況において売上を上げるには、「高額物件」へ営業をシフトすること。既に、営業部長として、営業担当にはマーケットの変化を伝え、こうした戦略を伝えてきたのですが、残念ながら、期待したほどの効果が上がってこないのです。どこに問題があるのか?まず、顧客の行動特性などから探ってみることにしました。
このサイトは管理人が個人的に運営しており、記載内容には個人的な見解も入っております。ご了承頂けますようお願い致します。
賃貸にしろ、分譲にしろ、「高額物件」を求められているお客様は、多くの場合、「明日から住むところを探している」というわけではありませんし、高いお買物をされるわけですから、じっくりと選ばれるという傾向があります。こうした層に当社を選んでいただくためには、「継続的なおつきあい=見込み顧客管理」が求められるということです。
この「見込み顧客管理」は、実は、当社の営業の泣き所でした。当社では、数年前からサイトを立ち上げ、物件の紹介や、問合せのルートも作っています。不動産のポータルサイトにも広告を継続的に出稿しています。ここ数年は、ネット経由のお客様の数が店舗に来店されるお客様のそれをはるかに上回っているのは言うまでもありませんが、実態を精査してみると、本サイトやポータルサイトで問合せてこられたお客様、特に、高額物件に対し問合せてこられたお客様の成約率は、想像をはるかに超えて低かったのです。
インターネットを主要なツールとして物件探しをされるお客様は、そのほとんどが、他社にもアクセスされています。高額物件になればなるほど、多くのルートで物件を探し、時間をかけて選ばれるのはいうまでもありません。その間、お客様の物件探しのご状況を把握し、適切な時期に適切なアプローチをする、すなわち、「見込み顧客管理」ができていれば、成約率も上がります。それができていないからこそ、成約率が上がらないのです。
会員向けの衛星サイトの立ち上げには、反対意見もありました。その第一の根拠は、「マンパワー」。大手様の中には、こうした会員サイトを立ち上げておられるところもありますが、営業部隊とは別に営業支援部隊があり、そうしたところが会員サイトの運用や管理を行っておられるというところが多いようです。当社にそうした専門部隊を置く余裕はありません。当社なりのやり方はないものだろうか?私は、その方策を探りました。
まず、改めて、この衛星サイトの「目的」に立ち返ってみると、当社が作ろうとしている衛星サイトの目的は、「営業支援」です。本来的には、支援される人、すなわち、営業担当が使いこなしてこそ、実りがあるものになるのではないか。そう思いついたのです。お客様サイドに立って考えてみても、サイトの管理者がお客様の要望や情報を営業担当に伝えて、営業担当が動くという道筋をたどるより、営業担当自らが直接関わるほうが、スピーディーな対応ができるはずです。
もちろん、こうしたことを可能にするためには営業担当の協力が不可欠なので、ヒアリングをしてみました。その結果は、すべての営業担当が「そうしたサイトがあると、活用できると思う」と賛同。同時に、「自分たちの意見を取りいれたサイトにしてほしい」という声もあがりました。そこで、衛星サイトづくりのプロジェクトに営業担当全員を参加してもらうことに。全員が参加できる、というのが、少数精鋭企業のいいところだとも言えるでしょう。
営業担当からさまざまな意見が出た結果、本サイトを経由せずに直接衛星サイトにユーザーを導入できるよう、単なる会員向けサイトとするのではなく、「K市で、じっくり住まいを探したい方のプレミアム(会員向け)情報収集サイト」という打ち出し方にすることにしました。
「運用面における方針も決定。ネット経由で情報を収集されるお客様だけではなく、入口が来店、サイト、メールに限らず、当社にアクセスしていただいたお客様のほぼすべてに、営業担当が当サイトへの会員登録を進めるということでコンセンサスを得たのです。物件案内をした際などにも、営業担当が各自持参しているノートパソコンを使い、その場で登録してもらう、というようなアクションをすることにしたのです。
こうした動きの中で、衛星サイトのコンセプトや、本サイトとの差別化のあり方も、自然と定まってきました。本サイトが「企業」としての当社の信頼性やポテンシャルを伝えるものであるのに対し、衛星サイトは、「営業担当」それぞれの"顔"が見えるものにしたい――。
そして、このコンセプトを具現化するために、会員になっていただくと、個別の営業担当が付き、そのお客様のご状況にあった物件や情報を紹介するという形式にしたのです。物件の選択にあたっては、ある程度、仕組みも作りましたが、あくまで情報の発信者は営業担当個人ということにし、動画で営業担当が語りかけるコンテンツも作りました。
さて、この衛星サイトに関する懸念のひとつが、「差別化」でした。前述したように、大手様でも同様のサイトをもっておられるところも少なくありません。そうした中から選ばれ、当社のサイトの会員になっていだくには、魅力的な「特典」が必要です。
経費を投下して「モノ」を提供する特典作りでは、大手様に太刀打ちすることは無理。では、お客様に「必要な情報」を特典のひとつにしてはどうか、と、住み替えのためのスケジュール作りに関する情報などを盛り込む案が出ました。
しかし、このような情報は、本サイトでも提供できますし、他社様の会員向けサイトでも散見されます。これでは、少し弱いのではないか。そう考えた末、「営業担当と会員様の距離が近い」という当社の衛星サイトの特徴を生かすことを思いつきました。すなわち、「エリアを日々回っている営業担当だからこそ分かる情報」をひとつの特典にしたのです。エリアごとのスーパーの簡単な特徴、クリーニング店の場所、犬を散歩できる公園の場所・・・・・・そんな情報を盛り込むことにしました。
しかし、「情報」だけを特典にするだけは、やはり弱い。もっとダイレクトに「お得感」を感じてもらえるような特典をつけられないものか。そう考えた末、当社が今まで培った地元のネットワークを活かすことにしました。つながりの深い引越業者さまと交渉し、当サイトの会員様が引越される際の費用に割引特典をつけていただくことにしたのです。
苦心の末、会員向けサイトが立ち上がって約4ヶ月。会員数は3ケタに近づきつつあります。数としては大手様のサイトなどに比べると、少ないかもしれませんが、当社のサイトの強みは、そのすべてのご状況を営業担当がしっかりと把握していることだと思っています。会員様からの成約も増え始め、全体としての成約率もアップしました。
会員様の半数は、営業担当が直接登録を勧めたお客様ですが、このサイトに直接アクセスして会員になられるお客さまの数も増加傾向にあります。その要因は、「じっくり選びたい方のためのサイト」と銘打ったことで、「会員になっても無理な営業をかけられない」と感じてもらえていること、そして、思いのほか、「町を日々歩いている営業担当のエリア情報」というのが、魅力的に移っているようです。実際にネットで検索して会員様になり、成約がなったお客様から、「住もうと考えていた町の空気感が伝わってきて、ぜひ、営業担当の○○さんの紹介で、この町に住みたいと思った」という嬉しい声も届いています。
このサイトは、更新など運用面でも、営業担当が深く関わっています。営業担当の負担が増えるということであり、継続していけるのかどうかに不安もありました。しかし、当社の営業部隊は若い人がほとんどであることもあって、このサイトでお客様に触れ合うことや、情報を発信することを、ブログ感覚で楽しみながらやっているようです。
実は、このサイトは、「対・マーケット」の効果と共に、「対・社内」の効果もありました。このサイトを通じて、営業担当が、「見込み顧客管理」の重要性や、「お客様の状況を把握し、成約に結び付ける」ことの醍醐味を認識することようになったことです。
二次的なものかもしれませんが、私自身は、今後において、このことがもっとも大きな効果だと言っていいと思っています。最初に書きましたマーケットの変化により、当社の営業スタイルは、簡単なニーズをその場で刈り取る「狩猟型」から、お客様をじっくりと把握する=育てて、大きな実りを得る「農耕型」への変化を求められています。このサイトは、この変化を実現できる営業担当の意識改革をもたらしつつあるのです。
また、営業力の「底上げ」も図れていると思っています。実は、前述したお客様からの嬉しい声をいただいた営業担当は、以前は、いまひとつ伸び悩んでいる人材でした。お客様目線にたった丁寧な仕事をする人だったのですが、今ひとつ"押し"が弱く、うまく成果には結びついていなかったのです。しかし、サイトでの取り組みにおいて、お客様目線に立って丁寧に情報を集めたり、こまめに発信するという、彼女の「長所」が行きました。成功体験をたことで、意欲が向上し、来店するお客様への対応も見違えるように積極的になり、周囲を驚かせています。